優しく微笑む、父が見える・・・。
私は嬉しくて、駆け出すのだが、なぜか父の元へたどり着けず、
私は必死に手を伸ばし父を呼ぶのだが、父はただ微笑むのだ。
そして、父は―――
ガラスの様に、音を立てて砕け散る
夢であってほしい、そう思って必死に「覚めろ」と目をつぶる。
目を開ければ、何事もなかったように、また父に会えるはずと願いながら・・。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
ハッと目を覚ます、またあの夢を見たのだ。
その証拠と言ってもいいように、
手を強く握っていた為にできた、爪の後がはっきりと残っている。
あの夢を見るたびに胸が締め付けられる。
「お父様・・・。」
何とかして様子を見ることができないのかと、着替えながら思案していると、
ふと、伯母様の顔が過ぎった。
「そうだわ!伯母様にご相談してみましょう。」
言うが早いか、ささっと仕度を整え伯母のいる離宮へと向かう。
この人物こそ、サージェムの姫君「奈央」である。
自称、女神だそうだがー「
小悪魔」だろぅ(苦笑い)
廊下の角を全速力で曲がったときのことだ、「ぽーん」と何かに当たった様で、
気がつけば、床に座っていた自身に戸惑っていたが、さらに戸惑うことが・・。
ぶつかった、「何か」は、クスクスと小さく笑っている、今自分の目に入ってくるのは、
深い緑に金の刺繍が施された、ドレスの裾ぐらいだったが、その刺繍には見覚えがあった。
見上げれば、懐かしい人がそこに居た。
齢、60を越えているが、未だに顔のシワは数えれる程度で、薄い化粧も良く似合う。
親しみやすい微笑みを称えた人物だ。(庶民の人気も高い。
幼少期の頃の伯母上は、そうとういたずら好きだった様子。
「伯母様!なぜここに?」
「ふふ、貴方と同じことを考えていると思いますよ。」
やさしく手を差し伸べ、そっと抱き寄せてくれる、微かに花の香りが漂う。
「さぞや、一人で心細かったのではありませんか?」
「伯母様の方こそ、心配で寝不足なのでわ?」
少し離れて、伯母が奈央の前にしゃがみこんだ。
「どうやら・・お互い様のようですね。」
二人で、微笑み合いながら手を繋いで歩き出した。
王の元へと・・・。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
奈央さまと伯母様が、王の下へ向かっていったのと同じ時、
そのころ双子は、レインに呼び出されていた。
(ちょ!何ですkこの生き物!?)
(わからん!わからんが触るとやばいz)
レインの研究室には、見たことも無いような、本や魔術の道具やら、
なにかの生き物のビン詰めがあった。
「あぁ、二人とも良く来てくださいました。」
「ヒィ!」
不意に声をかけられ、いつになく弱気な声がでてしまい、怪訝そうな顔をされた。
「適当に腰掛けてください。」
と、にこやかに促されるものの・・・、この乱雑に置かれた本の合間のどこへ座れと、と
言いたいのを必死で堪えつつ、ちょっと本を寄せれば座れそうな椅子を発見したので、
適当に寄せて腰掛けた。
「「で、一体何のようで俺達をここへ呼んだのか、説明してもらおうか?」」
紅茶を双子に手渡し、自身もソファに腰掛け話始めた。
「えぇ、私はあまり回りくどい説明は苦手なので単刀直入に言いますと、」
紅茶を一口啜りながら、悩んでいる素振りを見せたが、すかさず双子が
「演技は、ヤメロ。」
表情は相変わらず笑顔で、何を考えているのか判断がつかない。
「はっきりこの際、申し上げるのは、あなた方は誰の味方なのですか?ということです。」
「「ハァ?どういうことだYO」」
「現王か、それとも奈央様か、と言うことをお尋ねしているのですよ。」
双子の眉が一気につり上がった様子を、満足げに眺めるレインの姿はどこか、
狂気さを含んでいる。
「「てめぇ、何を考えていやがる!」」
「言ってもいいですが、ここから出られなくなりますが、どうします?」
口元には確かに笑みが浮かんでいるが、その瞳は悪意を帯びている。
「上等じゃねぇか!」「言ってみろよっ!!」
珍しく双子が、バラバラの答えだ。
「国家転覆ですよ。」
衝撃的な発言すぎて、双子の動きが完全に鈍い。
しかし、事の重大さが双子に力を与える、いつも懐にしまっていた短刀をレイン目掛けてっ、
とはいかず・・、モンモリーニが何の前触れなく横へ転倒していった。
「モンモリーニ!?おいっどうしたっ!」
「すまん・・、ギブアッp」(;´д`)
そう言って、本に埋もれて動かなくなってしまった。
「この野郎っ!何しやがったぁーっ」
振り返ってソファ目掛けて短刀を投げたがすでに、レインの姿はどこにもなく、
視界に唯一飛び込んできたのは、ファームの姿だった。
「ごっ、ごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げたかと思うと、ボンボリーニも本の上に倒れていた。
「よくできました、ファーム。」
賞賛の拍手を送るのはレインだ。
「さて、あとは、奈央様しだい・・・と言ったところかな。」
確信に満ちた表情で双子を見下ろすレインに、ファームが声を掛ける。
「このお二人はどうされるのですか?」
「放って置こう、目を覚ますのは、ちょうど計画が終わる頃だろうからね。」
ファームの表情は硬く、どこか悲しげだった。
「奈央様を・・、どうか守ってあげてください・・。」
レインに聞こえないほどの小さな声で、そうつぶやいた、叶わぬ願いだと知りつつ。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
再び、奈央さまと伯母様へ
「お待ちください!」
「お願いです!ここより先は立ち入り禁止でございます!どうか、お引取りを」
と、衛兵や女中達を完全に無視し、ズンズンと、
王の寝所へ向かう二人を止められそうな人物はここにはいなかった。
「これは、これは、お急ぎでどちらへ向かわれるおつもりですか?」
そう声を掛けられ、二人の足はピタリと立ち止まる。
「あらあら、家族の下へ向かうのに、理由など必要なのかしら?」
普段は優しい伯母だが、珍しく言葉にトゲがある。
「奈央様まで、言いつけを破るおつもりなのですか?」
初めてレインに、嫌悪感という物を感じたかもしれない。
どこか皮肉めいた言葉に、私は苛立ちを募らせた。
「父上に会えない寂しさが、貴方にはわからないんだわ!」
一瞬、レインの表情が変わった気がした、どこか寂しげで、どこか憎しみを感じるような。
伯母が、さぁ、行きましょうと声を掛けたので、レインから視線をはずしてしまった。
「最後の別れとなっても、知りませんよ・・・奈央様。」
小さくそう、レインが呟いたが、誰にも聞かれることは無かった。
王の寝所は、やはり広い、天蓋つきの大きいベッドに、
テーブル、ソファ、タンスや机があってもまだまだ、有り余っているほどだ。
机の上には、古い本が一冊置いてあった。
テーブルの上には、いくつかの書類が見える。
ベッドに横たわる、王は、確かに病にかかっているようだった。
ぼさぼさに伸びた白いひげと、自慢だった金の髪が今や多くの白髪が入り混じっている、
時折苦しそうに咳き込んでいる姿は、なんとも痛々しく、その表情は疲れきった様子だった。
「お父様!!」
不意に懐かしい声が、父王の耳に届いたが、それは幻聴だろうと自身に言い聞かせた。
「クルス!?」
かつて姉に呼ばれていた、自身の愛称だ。
ベッドに駆け寄る、自分の娘の姿が嬉しくてたまらなく愛しい気持ちにさせた。
「あぁ、ルスタ姉さん、それに・・・奈央・・会えてこんなに嬉しいなんて・・歳を取ったものだ。」
涙で前が見えなくなりながらも、しっかりと二人を抱きしめた。
伯母が身を引きながら、強く手を握ってくれるのがまた嬉しい。
「奈央・・見ない間にすっかり立派になったね。」
「当然ですわっ、お父様に心配を掛けたくなかったもの。」
気の強いところは、母親そっくりだと、思わず笑い出してしまった。
「ひどいですわ!笑うなんてっ」
「あぁ、すまないっ、だが・・いや、はは、母さんに似てきたなぁーとつい思ってな。」
驚きつつも、伯母も一緒になって笑った。
すっかり辺りが暗くなる頃、いつの間にか眠っていたことに気がついた。
「目が覚めたかい?」
「私、いつの間に眠っていたの?伯母様はどちらへ?」
キョロキョロと見回しても、伯母はどこにもいなかった。
「1時間ほど前に眠ってしまったみたいだね。
ルスタ姉さんはついさっき、大臣達に話をしなくてはと、息巻いて出て行ってしまったよ。」
どうやら寝ながらずっと父の手を握っていたようだった。
「奈央、話があるんだけど・・、聞いてくれるかな?」
真剣な父の表情に、不安はあったが、うなずいた。
次回 ~番外編 最終話へ